はじめに| ARTEMISプロジェクトについて  

Source Engineersは、スイスのベルンに拠点を置く組み込みソフトウェア企業です。欧州宇宙機関(ESA)およびベルン大学と協力し、 NASAの商業月面ペイロードサービスプログラムのミッションの一つで月面で使用される質量分析計「レーザーアブレーションイオン化質量分析計」(LIMS)を制御するファームウェアを開発しています。 

Typhoon HIL HIL404 リアルタイム シミュレーション デバイスとリモート IO デバイスをラピッド プロトタイピングおよびテスト自動化に使用することで、Source Engineers は他社に依存せずにファームウェアを開発し、ベルン大学に高品質のファームウェア リリースを提供できるようになりました。

課題| ソフトウェアテストのセットアップ  

ベルン大学は、LIMS質量分析計を5年以内に開発する必要があります。宇宙プロジェクトとしてはこの短い期間での開発は、Source Engineers社によるファームウェア開発をハードウェアサブシステムの開発と並行して開始できた場合にのみ実現可能です。 

これを可能にするには、他の企業が LIMS ハードウェアを開発すると同時に、テスト セットアップでファームウェアの開発を可能にするラピッド プロトタイピング インフラストラクチャが必要です。 

テスト セットアップは実際の質量分析計と同様に動作し、同じファームウェア リリースをテスト セットアップと実際の機器でテストできる必要があります。 

ソリューション| ラピッドプロトタイピングのセットアップ   

プロジェクト初期の「実現可能性と要件エンジニアリング」フェーズで、ベルン大学と Source Engineers は次のラピッドプロトタイピング戦略を定義しました。 

  • 質量分析計の制御に使用されるCPUは、「要件エンジニアリングと実現可能性」フェーズで評価されます。評価ボードをすぐに入手できることが必須です。 
  • 質量分析計のハードウェアを制御するために使用されるデジタル インターフェイスはベルン大学によって定義されており、関係するハードウェア開発会社によって変更することはできません。 
  • 実際の質量分析計と同様に動作するテストセットアップのインフラストラクチャは、「要件エンジニアリングと実現可能性」フェーズで評価・購入されます。選定されたコンポーネントは、即時利用可能であることが必須です。 
  • デジタル インターフェイスは、テスト セットアップで使用できるように、ベルン大学によって PCB 上にプロトタイプ化されています。 

この戦略に基づいて、図 1 に示すラピッドプロトタイピング プラットフォームが開発されました。 

図 1.ラピッドプロトタイピングプラットフォームのセットアップ図。 

コンパクトなテスト セットアップが製造され、図 2 に示すように、サーバー ラックに収まります。

図 2.ラピッドプロトタイピングのセットアップ。 

HILのメリット| HILプロトタイピングによる開発の高速化   

ラピッドプロトタイピング戦略を採用していない従来のプロジェクトは、ハードウェア開発とファームウェア開発の依存関係に悩まされています。まず、ファームウェア開発を開始する前に、システムとハードウェア設計の大部分を完了させる必要があります。その結果、図3に示すように、開発フェーズの初期段階で非生産的なギャップが生じることがよくあります。 

図 3.ラピッドプロトタイピング戦略を使用しないプロジェクト開発のタイムライン。 

上述のラピッドプロトタイピング戦略を用いることで、プロジェクトを異なる方法で構築することが可能になります。ラピッドプロトタイピング設備は「実現可能性および要件エンジニアリングフェーズ」で評価・購入されているため、開発期間全体をファームウェア開発に充てることができ、図4に示すように、非生産的なギャップを回避できます。 

図 4.ラピッドプロトタイピング戦略によるプロジェクト開発のタイムライン。 

Typhoon HILソリューションを用いたテストセットアップでは、実際のLIMS装置と全く同じ方法でアナログおよびデジタルI/Oをシミュレートできます。これにより、Source Engineersは、後に実際の質量分析計で使用されるファームウェアリリースと全く同じものをテストできます。この同等性とテストの自動化機能により、Source Engineersはハードウェア開発とは独立してファームウェアを開発し、ベルン大学に高品質のファームウェアリリースを提供することができます。 

Typhoon HILテストインフラストラクチャのおかげで、ベルン大学のクリーンルーム実験室でのテスト時間が大幅に短縮され、開発コスト全体が削減されました。 

クレジット 

テキスト|フルリン・ビューラー、ヤコブ・ヴァナー
ビジュアル|フルリン・ビューラー、カール・ミッケイ
テクニカルエディター| ヤコブ・ワナー、レモ・ザイラー
ブログ編集者| デボラ・サント